こんなに山が恋しいのに
また今週も雨なの〜と、
雨だからって登山を諦めていませんか?
それはちょっと、
いえかなりもったいない選択かも!
少しだけ知識と、装備があれば
雨の日だって登山できちゃうんです!
さて雨だからと諦めたあのコース、
あなたの登山スキルで本当に登れないほどに、
リスクが高いところだったでしょうか?
そう言われても
リスクはどこで判断するのか分からない、
という方もいらっしゃるはず。
ここでは登山ガイドが雨天決行の判断のときに
何をチェックしているのかについて
教えちゃいます!
さあ正しい知識と装備をフル活用して、
登山の新しい扉を開けてみましょう!
雨の日って危険? 決行の判断の仕方
天気を把握する
雨の日に
チェックすべき筆頭はやっぱりお天気。
けれども山の天気を知るためには
平地の天気予報だけでは情報不足。
そこで登山ガイドや
登山パーティのリーダーは
次にあげるポイントからお天気を
確認しています。
- 降水確率
- 予想降水量
- 風速
- 発雷確率
- これまでの天気はどうだったのか
- これから天気はどう変化していくのか
それでは雨でも登れるか登れないか、
どのように判断するのか詳しく説明しますね。
どのくらい雨が降るのか
まずは雨をチェックしましょう。
雨による催行判断は山岳天気予報の
降水確率と予想降水量のセットで考えます。
たとえば降水確率30%前後で
降水量1mm前後の予報なら
それほどひどい雨でもありません。
ではもう少し他の例をみてみましょう。
降水確率が60%以上+予想降水量3mm以上
・・・結構降られるかも
降水確率が60%以上+予想降水量1mm以下
・・・降ってもさほどでもないかも
このように降水確率の数字が高いと
なんとなくひどい天気を想像しがちですが、
じつは降水確率は
降水量や雨の強さとは関係ありません。
たとえ降水量が
1mm程度の弱い雨でも雨は雨。
雨が降る可能性が100%あるならば
降水確率100%という予報となります。
このことからわかるように
雨の量と強さを知るためには
降水量の予報をセットで
考える必要があるのです。
次の表には雨量についてまとめています。
1時間雨量 | 予報用語 | 受けるイメージ | 人への影響 |
---|---|---|---|
1mm | 弱い雨 | 霧雨 | 傘はいらない |
2mm | 弱い雨 | ポツポツとした雨 | 短時間なら傘はいらない |
3mm | 雨 | いよいよ降ってきたな | 雨具が必要 |
4mm | 雨 | 本降りになった | 外に出るのが嫌 |
10〜20mm未満 | やや強い雨 | ザーザー降り | 地面からの跳ね返りで足元が濡れる |
20~30mm未満 | 強い雨 | 土砂降り | 傘をさしていても濡れる |
30~50mm未満 | 激しい雨 | バケツをひっくり返したように降る | 傘をさしていても濡れる |
つまり100%の降水確率でも
雨量が少なければ、
さほどリスクにならないこともありますし、
逆に降水確率が50%でも、
雨量が3mm以上の予報であれば、
雨によるリスクは
降水確率と同じく50%高まるということになります。
もしも地形のリスクが高いコースで、
このように
気象リスクが50%の確率で跳ね上がる場合、
参加者のレベル次第では中止、あるいは
リスクに対処できる装備を追加するとともに、
引き返しポイントや
代替コースなどを考えます。
どのくらいの風が吹くのか
さて天気判断は
雨量と降水確率だけでは
終わりではありません。
忘れてならないのが風です。
遮るものがない山で風は脅威です。
もし雨の日登山のとき
風速8m/h以上だったら
こんなときはムリして登ることは
見送ったほうが良いでしょう。
理由はふたつ。
風の脅威のひとつが、冷えです。
風速1mで体感温度は約1℃下がります。
雨天のときは雨や、
レインウエア着用による暑さから
汗や蒸れで身体が湿っていることも
少なくありません。
このような濡れた体は風で
どんどん体温が奪われてしまい、
低体温症のリスクが高くなります。
もう一つの脅威が行動への影響です。
風が強いと歩行が困難になったり、
転倒や転落のリスクが高まります。
山では人が吹き飛ばされるほどの
強風が吹き付けることも珍しくありません。
以下に風速ごとの影響をまとめております。
風速1m/h〜4m/h | 特に問題なく歩ける。 |
---|---|
風速5m/h〜7m/h | 風が気になるが歩ける。 |
風速8m/h〜10m/h | かなり風が強く感じるが歩ける。 |
風速10m/h〜12m/h | 体重の軽い人はよろめき始める。 |
風速13m/h〜15m/h | 帽子など飛ばされそうになり、ふんばって歩かないと風下へ徐々に押されていく。 |
風速16m/h〜17m/h | 上げた足が風にすくわれそうになる。風に向かって歩きにくい。バランスを崩しやすい。 |
風速18m/h〜19m/h | 風に向かって歩くのは困難。身動きが取れなくなる。 |
天気予報の風速を体感するために
あると便利で楽しいのが風速計。
実際の風を数値で把握していると
天気予報の数値を見ての
催行判断がしやすくなりますよ。
発雷の可能性をチェックしよう
雨と風のチェックが完了したら
まだチェックするものがあります。
それは雷です。
山の雷は怖いものです。
目的の山域に雷警報や
雷注意報が出ている場合、
そんな日はさすがに
登山は控えたほうが良いでしょう。
その理由のひとつが自分への落雷。
森林限界を越えた稜線にいる場合、
まわりに自分より高いものがないため、
自身への落雷の可能性が高まります。
たとえ樹林帯だったとしても
すぐ近くの高木に落雷すると
たいへん危険です。
もうひとつの理由が、
標高によっては山がすっぽりと
雷雲の中に入ってしまう点です。
こうなると地上では頭上で鳴る雷が、
山では上下左右全方位で
発雷することになります。
このように発雷確率が高い日は、
山中で雷雲に捕まらないように
コースや時間帯を調整したり、
あるいは
避難したりの判断が必要となります。
雷の発生について知るためには、
気象予報士の天気概況での解説に
注意しましょう。
これは地上天気予報でも充分です。
たとえば気象予報士が天気概況で
「上空に寒気があって」や
「大気の状態が非常に不安定」と
言うときは要注意です。
必ずといっていいほど「発雷確率が高まる」と
注意を呼びかけているはずです。
登山の前後の天気予報も確認しよう
雨の日登山ができるかどうか
気象リスクについて忘れずに
チェックしたいポイントがあと2つあります。
これまでの天気はどうだったのか。
ずっと雨が続いていたのなら、
登山道や斜面の状態が不安定になっていたり、
増水によって渡渉が困難になっている可能性が
高くなります。
登山口で慌てないためにも情報収集をしましょう。
そして
これから天気はどう変化していくのか。
天気が回復傾向かさらに悪化傾向か、
これから天気がどう変化していくのかを
確認しておくことも大事です。
万が一アクシデントが発生した場合の
対処プランが立てやすくなります。
天気(雨量、風、雷)の情報源
それではこれらの
判断材料を
どこから入手できるのかを紹介します。
・天気予報は一般天気予報ではなく山岳用を。
山へ行く時は一般的な天気予報ではなく
山岳向けの天気予報で
お天気を確認しましょう。
ふだん観るテレビなどの天気予報は、
海抜0メートルの地上を対象としています。
ところが山は日本国内でも
標高1000m前後から3000m以上も
高い場所になりますので、
地上の天気予報はほとんど当てはまりません。
以前は地上の天気予報を見て
登山に出かける人も少なくなく、
晴れ予報だったので登ったら、
山はひどい悪天だった、ということも
しばしばあったようです。
このため遭難で
命を落とすケースもありました。
最近ではこうした遭難の教訓もあり
山岳天気サービスが充実しています。
ぜひ活用しましょう。
それではここで
登山者がよく使う天気サービスを紹介します。
なるべく複数の天気サービスの情報を
参考にして催行の判断をしましょう。
各種天気データの判断の目安をまとめました。
ちなみにわたしは
登山ガイドツアーの催行判断の際に、
気象庁のデータおよび天気概況、そして
ヤマテン、
お天気ナビゲータープロ、
Windyを主に利用しております。
どのサービスがいいのかは
好みにもよりますが、
天気予報サービスを供給している運営会社や
組織が異なるものを複数チェックして
催行判断をするのが良いでしょう。
サービス名 | 費用 | 特徴 | 運営会社 |
てんきとくらす | 無料 | 登山指数A,B,Cの3段階で、 登山に適した天気かどうかを予想。 ※登山指数は雷については考慮されていないので要注意 |
日本気象(株) |
お天気ナビゲーター スタンダードコース |
月額110円 | 有名な山から低山まで、 詳しい天気・気温・風や3日間の天気がわかります |
日本気象(株) |
お天気ナビゲーター プロコース |
月額288円 | 有名な山から低山まで、 詳しい天気・気温・風や10日間天気がわかります |
日本気象(株) |
登山天気tenki.jp
ライトプラン |
月額240円 | 日本三百名山を対象。 山の天気予報を「山頂」「登山口」「ふもと」の3段階で標高別に天気を表示 |
一般財団法人日本気象協会 |
登山天気tenki.jp
プレミアムプラン |
月額550円 | ライトプランにプラスして 1時間ごとの天気予報や14日先までの天気予報がある。 |
一般財団法人日本気象協会 |
ヤマテン山岳気象予報 | 月額330円 | プロの信頼も厚い 山岳専用の天気情報サービス。 独自のアルゴリズムによる天気予報で全国330山の山頂予報に対応。 |
ヤマテン |
Windy | 無料 | チェコの会社が運営する気象情報サイト。 高い予測精度の「ECMWF(ヨーロッパ中期予報センター)」と、「GFS(アメリカ国立気象局)」の気象情報を基に提供。 |
ウィンディ・ドットコム |
地形リスクを把握する
山にはさまざまなリスクがあります。
ここまでチェックしてきたのが
気象リスクですね。
気象リスクはどんどん変わっていく
いわば変動的リスクです。
これから説明する地形リスクは
その山域にいつもあるリスクです。
ですので登ったことのある山ならば
どんな地形でどんなリスクがあるのか
予想を立てやすくなります。
雨の日に登る山は、何度か登ったことがあり
地形リスクを把握できているコースを
選びましょう。
もちろん地形図を読み慣れた方ならば
地形図から地形リスクを
洗い出してもよいでしょう。
それではここからは
雨でもそのコースは登れるかどうか
地形リスクで判断するポイントを
説明しますね。
雨の日、こんな谷地形や沢に要注意!
要注意①:急な谷や沢がコース中にある。
→土石流や土砂崩れのリスク
急峻な地形の山に雨が降ると雨水は山肌から
枝沢に流れ込みます。
そして枝沢は
下るほどにどんどん他の沢と合流し、
短時間で急激に水量が増し
激流となっていきます。
このとき狭く急な沢を流れるため、
ときには山肌を削り、
不安定な土砂を押し流すことも。
もし急に増水し、
登山道にも影響があるようなら
無理に行動しないこと。
そんなときは
低体温症にならないよう注意しながら、
少しでも安全な場所に退避して
水が収まるのを待ちましょう。
この先雨が弱まる予報の場合、
こうした地形では水が引くのも早いものです。
このためにも入山前にこれから天気が
どう変化していくのか
把握しておく習慣をつけましょう。
要注意②:登山道を沢や谷が横断している。
→沢の増水で帰れないリスクや流されるリスク
たとえ水色にマークされていなくとも、
谷地形は水流があることもあります。
はっきりと沢マークであればなおさら、
雨の日は水量が増えるので
沢を渡ることが
困難になる場合もあります。
とくに同じコースを往復するとき、
往路では渡ることができた沢でも、
下山時に雨で増水してしまうと
渡れなくなることも。
ですので雨の日はこうしたコースは
避けたほうが無難です。
というのも、
水量が増えれば流れが速くなって
水圧も大きくなりますね。
この水圧というのは
思いのほか強いものです。
たとえ膝下までの水量でも、
大人の男性ですら
容易にバランスを崩してしまうほどの
エネルギーがあります。
このような沢で転倒し
流されてしまうと大変です。
岩に激突して大怪我を負ったり、
また沢には必ず滝がありますので、
滝からの転落のリスクもはらんでいます。
こうした
大きなリスクが考えられるコースでは、
もし増水で帰れなくなったときは
ムリに沢を渡ろうとせず、
救助要請や他に安全な下山コースを使う
などの判断が必要となります。
増水した場合にどういう行動を取ったら
良いのかをあらかじめ決めておくことで、
もしものときでも
落ち着いて行動ができるでしょう。
雨の日、こんな登山道に要注意!
要注意①:
登山道が急斜面の山腹を横切るような道になっている。
→滑りやすい斜面で滑落しやすく。
急な山腹を横断する登山道では、
やっと足ひとつ置けるような、
狭い幅しかない場合がほとんどです。
また濡れた土や、露岩、木の根では
登山靴はとても滑りやすくなります。
山を歩き慣れない登山者は、
雨の日はこうしたコースは避けるか、
上級者による
的確なフォローなどの対策が必要です。
要注意②:登山道を谷地形が横断している。
→沢になっていることが多いので登山道が崩壊しやすい。
登山道を横切るように
谷地形あるコースなら、
雨量が多い日はその谷を雨水が流れて
沢になっていることも考えられます。
また急な斜面の場合は
雨水とともに落石の危険もありますし、
不安定な地盤であれば斜面が崩れて、
登山道が
押し流されてしまうことも考えられます。
登山の当日だけではなく、
前日までに
まとまった雨がなかったかも確認しましょう。
要注意③:登山道が岩場になっている。
→雨で滑りやすくなり転落の危険がある
岩が濡れると登山靴は
とても滑りやすくなります。
特に蛇紋岩は滑りやすいのでとても危険。
こうした地形があるならば
雨の日は控えたほうがよいコースです。
登る前に地形図などで
登山道上に岩がないか確認しましょう。
もしも岩場で転倒すると、
怪我をしたり地形によっては
転落の恐れもあります。
要注意④:登山道の痩せ尾根に岩がある。
→雨で滑りやすくなり転落の危険がある
痩せ尾根は、左右が切れ落ちているので
絶対に転倒してはいけない場所です。
こうした痩せ尾根の登山道に、崖や
崩壊など足場の悪そうな地図記号がある場合、
コースを変えたり中止の判断が妥当でしょう。
そして岩場の場合は雨の日、
滑りやすくバランスを崩しやすくなります。
また風が強い日もこうした地形は避けるか、
危険を回避できるような装備を
万端にしましょう。
要注意⑥:木道が濡れている!
→登山靴が滑りやすく転倒しやすい
乾いていると歩きやすく快適な木道。
ところが濡れると一変、
つるつると滑りやすくなります。
とくに斜度のある木道や、
斜めに傾いた木道は要注意!
どうしても滑りそうで危険なときは
木道から降りて通ることも仕方がないでしょう。
ただし木道は登山者が
登山道以外に踏み入らないことで、
植生を保護するためのものでもあります。
植生を傷つけないよう
配慮することをお忘れなく。
要注意⑤:
登山道の痩せ尾根は刈り払いがされていない。
→雨で重くなった草で足元が見えない
刈り払いが行われていない
痩せ尾根の登山道は、
雨の重みで草がかぶさってしまい、
いつも以上に
足元が見えにくくなることもあります。
たとえば痩せ尾根で、
草に覆われた部分を地面だと思って
踏み出したら、
断崖絶壁だったということも良くある話。
こうしたことのないように
マイナーな山域の場合は、
YAMAPやヤマレコなどで
直近に登った人の情報をチェックしたり、
地元の市役所などに問い合わせましょう。
もっとも登山道の状況がわからないまま、
厳しい地形のコースに悪天時に挑むのは
控えた方が良いでしょう。
登山口までのアプローチもチェックしよう。
要注意:
沢沿いの林道や、急な山腹にある林道は危険。
→土砂崩れや増水で孤立する可能性が。
アプローチの林道をいくつも溝が
横断していることがありますが
これは山からの雨水を逃すための措置です。
こんな雨水逃しの多い林道は、
たいていが急な山腹にあることが多く
雨量によっては落石や、
土砂崩れが発生しやすくなります。
そして道路と並行して川がある場合は、
山腹から一気に雨水が流れ込んで
あっという間に増水することも。
登山当日の降水量はもちろん、
登山の前日までの雨についても確認し、
安全に通行できるかどうか
情報収集をしっかりとしましょう。
濡らさない対策!
登山では身体を濡らさないことが
地味ながらも大事なスキルのひとつです。
登山のための三種の神器に
レインウエアが挙げられているように、
いかに体を濡れから守るのかは
とても大事なことなのです。
上下で3万円もするレインウエアや、
1万円前後もするアンダーウエアに
ベテラン登山者たちが
こだわるのもそこにあります。
ではなぜ
身体が濡れるとだめなのでしょうか?
その理由は体が冷えるから。
体が冷えることは遭難の一歩なのです。
どういうことでしょうか。
山で怖いのは低体温症
雨の日に登山をするならば、
必ず知っておきたいのが低体温症。
これは
ときには死にも至る恐ろしい症状ですが
正しい知識があれば
避けることのできるリスクです。
人の体はいつも一定の体温で保たれています。
ところが何らかの事情で
体温が下がってしまうと、
たとえ夏山でも
低体温症のリスクがあることを
覚えておきましょう。
というのも体温が下がると人の体は
正常に動くことができなくなり、
やがて死に至ることもあるのです。
遭難でもっとも多いのが道迷いですが、
道迷い遭難死の直接的な死因は
低体温症というケースがほとんどなのです。
山で低体温症に対処できるのは、
最初の震えがはじまった段階までです。
この「震え」というのは、
筋肉が振動することで
熱を生み出そうとする体の防衛反応。
震えにはたくさんの
エネルギーが消費されます。
この震えがなくなるということは、
体にはもう熱を生産するための
エネルギーが
なくなってしまったということ。
こうなってしまうと、
もう山では体温を上げることができません。
ですので震えがはじまったときには、
すでに低体温症の入口に
いるようなものなのです。
低体温症から自分を守るためには、
「寒い」と感じた時に
すぐに対処するべきですし、
体を濡らさないこと。
雨の山で濡れる理由は、
雨に当たることもありますが、
雨具などを着たことによる暑さからの
蒸れや汗も大きな原因です。
レインウエア含め登山ウエアは、
こうした蒸れによる濡れに対処することで
登山者を低体温症から
守るためのものでもあります。
速乾性や、疎水性の高い素材、
雨は通さず蒸れは逃す素材、
濡れていても保温性の高い素材、などなど
さまざまな機能を備えたウエアがあります。
その高機能に比例して高価なのが
悩ましいのですが、
体を守るシェルターと考えれば
納得かもしれませんね。
それでは雨の日でも登山をするための、
濡れから体を守る装備を見てみましょう!
身体を濡らさない装備と対策
山のウエア 基本はレイヤリング
基本となるレイヤリングは
次に上げる3レイヤーです。
□アンダー:肌着など肌に密着して汗を素早く吸い上げる。
□ミッド:アンダーレイヤーが吸い上げた汗を吸い上げ外に放出する。
□アウター:外からの雨風から体を守り、蒸れを逃す。
山での行動中は衣類のレイヤリング、
つまり重ね着によって体温調節を行います。
またウエアの機能には、
汗を素早く肌から吸い上げて
外へ放出することで蒸れによる冷えから
体を守ることも期待されます。
コツは寒いからといって、
厚いウエア1枚を用いるのではなく、
衣類の枚数を増やすことで
保温性を高め体温調整を行うことです。
山では動いている間は暑くても、
休憩で立ち止まると急速に冷えたり、
樹林帯では暑かったのに稜線に出た途端に
風がふきつけて冷えるなど、
寒暖の環境がめまぐるしく変化します。
これに合わせてなるべく汗をかかないよう、
あるいは冷えすぎないように
細やかな体温調整をすることになります。
脱ぎ着できる複数のウエアを着ていれば、
こうした状況ごとに
細かな体温調整が容易になります。
最近では以上の3レイヤーに
2レイヤーを足した
5レイヤーを推奨するメーカーもあります。
□ドライレイヤー:アンダーの下に着る、疎水性の高いウエア。常に肌をサラッと保つ。
□サーマルウエア:温度調整のための保温性の高いウエア。
ドライレイヤーの代表的なメーカーは、
日本のファイントラック。
非常に高い疎水性があり、
着た瞬間にさらりとした肌触りで
とても快適です。
↑こちらが、ファイントラックの生地。
一度着ると手放せなくなるという愛用者が多く
登山者だけでなく、
夏のビジネスマンたちにも
その快適性が支持されているほど。
そしてもうひとつが
フランスの老舗登山用品メーカーのミレー。
こちらは物理的な構造によって
疏水性が高められているので、
破れないかぎり性能が維持されるようです。
↑こちらがミレーのドライレイヤーの生地。
こうした登山用のインナーレイヤーは
肌に密着することで
汗を吸い取る機能を発揮します。
このため選ぶポイントは
密着したときに動きやすいかどうか。
わたし個人的には生地が薄いこともあってか
身動きしやすいファイントラックの出番が
多い傾向にあります。
ウエアの素材にこだわる
登山ウエアの素材は
「化学繊維」と「天然素材」に分けられます。
「コットン(綿)」はNGというのは
山の常識です。
コットンは下界では肌触りがよく
好まれる素材ですが、
濡れると乾きにくいのが難点。
濡れによる冷えで
低体温症のリスクが高まる素材なのです。
次の表に登山ウエアに用いられる化学繊維と
天然素材の特徴をまとめてみました。
参考にしてみてくださいね。
化学繊維 | 天然素材 | 天然素材 | |
---|---|---|---|
種類 | ポリエステル100% | ウール | シルク |
メリット | ・速乾性が高い ・比較的安い | ・濡れていても 保温性が高い ・消臭効果が高い | ・肌触り良い ・吸水性が高く 放湿性も高い ・薄くても暖かい ・消臭効果 |
デメリット | ・消臭効果が低い。 | ・高価 ・保管時に 虫に食われやすい | ・高価 ・商品が少ない ・長持ちしない |
山のウエアは
化学繊維ならなんでもいい
というわけではありません。
ポリエステル100%かどうか確認を。
山用に開発された素材は、
特に吸水性がよく速乾性に優れています。
とはいえ夏の蒸れやすい雨の日には、
いくら高性能素材のウエアを着ていても
乾く暇もなく汗をかいてしまい、
行動中にサラッと乾くということは
なかなかありません。
万が一のとき、
すぐに下界へエスケープできる山域なら
好みの素材でも良いかもしれません。
そうではない山域の場合は、
濡れていても
保温性のある天然素材が安心です。
とくにグループで行動する場合、
メンバーでアクシデントがあれば
立ち止まることも多くなります。
こんなとき
気温が低かったり風がある日だと、
立ち止まることで体が冷えますので、
複数人による長い行程の登山の際にも
天然素材が心強いと考えます。
こちらはモンベルのスーパーメリノウール。
ウール素材にありがちなチクチク感がなく
柔らかな着心地です。
しかも下山後のクルマの中でも
汗のニオイがなくて快適。
もちろん気温がある程度高く、風もないなど
低体温症のリスクが低い場合は
あまり神経質にならず
お好みの素材が快適です。
ただしコットンは避けましょうね。
失敗しないレインウエアの選び方
ウエアのなかでもとりわけ高価なのが
レインウエア。
長く使うものだし、いざというときに
守ってくれるスペックでなければ困る。
ということで
絶対失敗したくない買い物の一つですね。
最近ではGORE-TEX素材のほかにも各社から、
独自に開発された新素材もいっぱい。
どう選んでいいのか迷う人も多いのでは。
自分の山行スタイルにぴったりな
レインウエアの選び方をまとめます。
どうぞご参考に!
雨でも構わず山に行きたい!
毎週登らないと気が済まない!人。
そんな人におすすめの
丈夫で信頼できるレインウエアなら、
素材はやっぱりGORE-TEX3レイヤーの一択、
+耐久性や動きやすさとのバランスで。
→モンベル:ストームクルーザー
→ザ・ノースフェイス:クライムライトジャケット
一方でスムーズな動きと着心地重視なら、
ストレッチ性が高くシルエットがシュッとした
コチラがおすすめ。
GORE-TEXほどの耐久性には届かないものの、
ストレスのない着心地で人気。
→ファイントラック エバーブレスフォトン
ちなみに現在わたしも
このモデルを使用しております。
ときどき雨に打たれる山も一興かなという人。
もちろん予算が許すなら
GORE-TEX3レイヤーなど、
ハイスペックを選べばいいのですが、
予算が厳しい場合は
GORE-TEX以外の素材も検討しましょう。
→モンベル サンダーパスジャケット
独自に開発したドライテック3レイヤー。
耐水圧20,000mm以上、
透湿性20,000g/m²・24hrsと
性能も登山に使って問題なし。
コスパがよくモンベルの
GORE-TEXレインウエアの
半額ほどの価格で購入できるのも
うれしいですね。
エントリーモデルにもおすすめです。
ただしポリウレタンの
加水分解による寿命があり、
GORE-TEXに比べると劣化が早いようです。
数年使ったら剥がれなど
不具合がないかチェックを。
レインウエについてアガイドの所感
迷ったらモンベルで
ほとんど後悔はありません。
雨が多く多湿の日本のブランドだけあって、
積み重ねてきたノウハウが
違うのかもしれません。
ただシルエットがだぶついてなあ・・・と、
シュッとしたシルエットにこだわりたいとき、
考え方としては
ジャケットはどうせザックを
背負ってしまうので
細身のシルエットじゃなくてもいいとして、
ズボンだけでもシュッさせたい。
そこでズボンはファイントラック、
というチョイスもひとつの手。
シルエットもさることながら、
足捌きの良さで満足できるかと思います。
雨の日の帽子
レインウエアのフード。
あれを被ると視界が限られてしまってイヤ。
そんな人は少なくありません。
おすすめはレインハット。
雨脚がそれほど強くなかったり、
風が弱い雨の場合、これを被れば
フードがなくとも襟元に雨が注ぐことはほぼありません。
ただし髪の長い人は髪を
レインウエアの中にしまうのを忘れずに。
髪が濡れると雫が襟元から入って
衣類を濡らしてしまうこともあります。
レインウエアの機能をしっかり引き出す着方
高価なレインウエアなのに濡れてしまった。
ときどきそんな方がいます。
そんなときは
着方をチェックしてみましょう。
□首に巻いたタオル:タオルが雨に当たっているとこれを伝わって衣類が濡れます。
□長いポニーテール:髪の毛を雨が伝って衣類が濡れてしまいます。
□襟元や袖口が開きすぎ:風の強い雨の日など、きちんと襟や袖を閉めていないとあっというまに雨がしみこんできます。
□手入れしていない1:レインウエアはキレイに見えても使うたびに、皮脂などの汚れが付着します。この汚れがフタとなって体の蒸れを外へ逃すことができなくなってしまうと、蒸れで衣類が濡れてしまいます。
□手入れしていない2:レインウエアは撥水性があってこそ。撥水性が低下すると、表面に水の膜ができて中からの蒸気を逃すことができなくなります。
こうしたトラブルを防ぐためにも
理想は使ったら毎回専用洗剤で洗って、
撥水剤をかけておくことです。
足を濡らさない装備と対策
登山靴には防水スプレーを
昨今の登山靴は
ほぼGORE-TEXが用いられています。
GORE-TEXなら耐水性があるから、
スプレーはいらなくない?
いいえ。
撥水力がなくなって水が表面にしみつくと、
内側の蒸れを逃すことができなくなり
汗で濡れてしまいます。
これを防ぐためにも必ず防水スプレーを。
汚れも落としやすくなります。
スパッツ(ゲイター)はレインウエアの上?下?問題
スパッツは泥汚れ予防や、
小石や小枝などが
靴に入るのを防いだり
何かと便利なアイテム。
雨の日、
レインウエアのズボンを履いたとき、
効果的なスパッツの使い方をご紹介します。
レインズボンの下、が正解。
レインウエアの下に
スパッツを装着する理由は、
ズボンの上に装着すると雨水がスパッツと
ズボンの隙間から入り込み、
ズボンの裾を伝わって
靴の中に浸水しやすくなるからです。
ズボンの上に装着するときのワザ
けれど雨の日は登山道がドロドロで
レインウエアの裾が汚れてしまうのがいや。
そんな理由から、スパッツを
ズボンの上に装着している場合もあります。
そんなときのウラワザ。
スパッツの上部に、
レインウエアのズボンを
すこし引っ張り出します。
これをスパッツとズボンの境目を
覆い隠すようにして折り重ねると、
ちょうどスパッツの上に
カバーができますね。
これでズボンを伝わって
雨水が中に入ってくるのを
防ぐことができます。
荷物を濡らさない装備と対策
ザックが濡れてしまうと、
水を吸って重くなってしまうばかりか、
荷物もびしょびしょになってしまいます。
そうなると
羽毛シュラフや、羽毛ジャケットは
濡れてしまうと保温力がなくなって
ただのお荷物に。。。
バーナーが濡れてしまうと調理に困ります。
大事な装備の雨対策だって、
しっかり行うのが
雨の日登山のスキルのひとつです。
ザックカバー
最近のザックや、
製品によってはポーチなどにも
レインカバーが標準で
付属しているものがほとんどです。
ザックにレインカバーを装着するタイミングは
自分が雨具を着るタイミングで。
もし付属していない場合は、
ザックのサイズごとに別売りされております。
必ずサイズにあったものを選びましょう。
というのも大きすぎると、
風に煽られて飛ばされてしまうことも
ありますし逆に
小さいと全体をカバーできずに
荷物を濡らしてしまいます。
とはいえザックカバーをしていても
万全ではないことも確か。
気がつけば、ザックカバーの底に
雨水が溜まっていてザックの底が
濡れてしまうことも実際よくあります。
ということで
雨の日はザックの外側にカバーするだけでなく
ザックの内側からも雨対策がおすすめです。
大きめの防水スタッフバックか
ゴミ袋などをザックに入れて
その中に荷物を
パッキングすればオーケーです。
ザックカバー不要のザックを選ぶのも手
レインカバーって面倒だな。
そんな人におすすめが
防水性の高い生地とインナーの
2枚構造となっているザックです。
この商品はレインカバー不要なので
とても楽です。
→モンベル アルチプラノパック
https://webshop.montbell.jp/goods/disp_fo.php?product_id=1133202
ザックの中だけ濡れなきゃいい!
カバーをつけると
ザックを開けるのが面倒になりますね。
わたしもガイド中、
すぐに荷物を取り出したいときなど、
ちょっと邪魔に感じます。
じつはわたしは
ザックのレインカバーは使いません。
使うとすれば下山後に
公共交通機関を利用する際に、
周囲に迷惑にならないように
カバーをかけるときぐらい。
じゃあどうしているのかと言いますと、
雨が降りそうな日の登山では
ザックの中に防水仕様のスタッフバックを
入れてその中にパッキングします。
そしてザック本体には防水スプレーで
ささやかですが浸水予防対策をしておきます。
こうすればいちいちカバーをつけたり
外したりの手間もありません。
カメラ、時計、スマホを濡らさない装備と対策
パッキングのためにスタッフバックを
利用している人も多いかと思います。
そのほとんどは巾着袋になっていますが、
防水性の高いものはくるくるっと閉める
ロールトップ式になっており
この形状が水の侵入を完全に防ぎます。
またジップロックなども
小物の防水には便利です。
しかもサイズも豊富ですし
さらにはコスパも良いので活躍します。
そしてもうひとつ方法としては
ややカサ張りますが中身を潰したくないモノなら
タッパーなども利用してみましょう。
カメラ
カメラにはレインカバーが各種あります。
主に一眼か一眼レフ向けですが、
千円前後からとリーズナブルなのが
うれしいですね。
高級機をお持ちの方は
愛機への雨対策も万全に。
時計、スマホは防水のものを選ぶ
ひんぱんに取り出し出す機会の多いものは、
最初から防水仕様を選びましょう。
時計の場合
雨対策に必要なスペックとしては
生活防水程度でも十分ですが、
水たまりに落とすことも考えられます。
生活防水とは
3気圧の水圧に耐えられるものです。
これは手洗いや雨などでの
使用も問題ない範囲です。
防水時計と言われる時計は
10気圧の水圧に耐えられるもので、
これは水中でも使うことができます。
ただし潜水のようにさらに深く潜る場合は、
ダイバーズウォッチを選ぶことになります。
登山にはダイバーズウォッチほどの
ハイスペックは不要ですが
防水時計を選ぶと安心です。
万が一のためのアイテムも用意しよう
防寒衣類
夏山はついつい防寒衣類を忘れがち。
下界が夏日でも2000mの山に登れば気温は
約12度も気温は下がります。
ということは
下界が28度なら2000mの標高なら
16度。
これはちょっと肌寒いくらいの気温ですね。
標高は100mごとに
だいたい0.6度下がると覚えておきましょう。
これにプラスして
風が吹けばさらに体感温度は下がります。
たとえば夏なら行動中の防寒着には
薄手のフリースやネルシャツ、
暑がりな人ならベストなどでも良いでしょう。
ダウンジャケットは軽くて重宝しますが
行動中は汗で蒸れると保温力が低下します。
汗をかかないシーン限定で使用しましょう。
最近は濡れても保温性の高い
化繊タイプのダウンジャケットも
ありますので検討してはどうでしょう。
ツエルト
雨の日はリスクが高くなることは確か。
万が一に備えてツエルトがあると安心です。
この薄い生地一枚あれば、
風からの冷えを防ぐことができます。
ただしほとんどの
ツエルトは防水性ではありません。
もしビバークする場合には
なるべく雨のあたらない木の下などを
選びましょう。
またふだんから貼り方や使い方を
習得しておくことも必要です。
非常食
雨の日に限らず携帯するものですが
非常食を忘れずに!
低体温症はいくつかの要因がありますが
そのひとつにエネルギー不足も。
寒くて震えがきそうなら、衣類を調整し
こうした
手早く食べられる高カロリーの糖類を
補給しましょう。
ヘッドランプ
こちらも雨の日を問わず日帰り登山でも
必携の装備品ですね。
万が一山で一晩を過ごすときは
灯りがあると安心するものです。
また下山の最中に日が暮れることもあります。
街灯のない山のなかは日が沈めば
じぶんの手すら見えないほどに真っ暗に。
落ち着いて行動するためにも
必携アイテムですね。
そして忘れがちなのがバッテリー。
乾電池を使うタイプですと
いざ使おうとしたとき、
液漏れで使えなくなっていた
なんてこともよくあります。
こんなことにならないように、
定期的にチェックすることはもちろん、
長い期間使わないときは
電池を抜いておきましょう。
スマホとモバイル充電器
遭難したときに遭難者はもちろんですが
捜索側にとっても頼みの綱になるのが
通信手段です。
昨今はほとんどの人が
ケータイを持っていますね。
何かあったときのために
モバイル充電器もザックに
入れておきましょう。
スマホのGPS機能は圏外でも機能します。
道迷いしたとしても地図読みスキルと
スマホとバッテリーがあれば
正規のルートに戻れる可能性が
ぐっと高まります。
まとめ
雨の日の登山、あなたはでかけますか?
晴れの日よりもリスクが高まるのは
仕方がありませんが、
どんなリスクがあって、
どんな判断と対処をするのか。
これを知るだけで、
リスクはぐっと減少します。
ここでは雨の日に安全に登り、
判断するために知ってもらいたい
以下のような知識を紹介しました。
- 山の天気を知り気象リスクを把握する
- 山の地形を読み地形リスクを把握する
- 体を守るウエアを知る
- 低体温症について理解する
- 装備を正しく使って性能を引き出す
正しい知識と装備を味方に、
見慣れたはずのお気に入りの山域の、
新しい魅力を探しに
雨の日に山へ出かけましょう!
雨が止んだ山並みを
雄大な滝雲が流れていました。
焼石連峰にて。
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